【取材】「1008(センノハ)株式会社」辻榮 亮氏

棄てられている獣皮を土に還る革製品へ、そこに込められた想いとは。



SDGs SQUAREでは、サステナブルやSDGsを意識した活動をされている方にインタビューをしています。どんな想いをもってその活動をしているのかを伺い、一人でも多くの方に伝えていければと思っております。

第10回目は、「1008(センノハ)株式会社」 辻榮 亮氏です。

Profile 
2010年、葛飾区にて「総天然素材革工房 革榮」を設立。究極の循環型レザープロダクト「土に還る革製品」を世に送り出す。2019年より千葉県睦沢町へ移住。敷地内PV&V2Hを運用し再エネ100%操業を達成し「再エネ100宣言REAction」へ加盟。2020年には県内の獣害残渣センノハを有効活用すべく「チバレザー」へと生まれ変わらせる事業に着手。
事業の一環として一般家庭への再エネや関連機器、EV、の導入・試算も行う。2021年には災害時のEV・V2H有効活用のための住民連携の仕組み構築など様々な主体を巻き込んだ活動も展開。こうした自身の取組みを広げるため、千葉に特化した地域商社にすべく同年8月1008(センノハ)株式会社を設立。


千葉県睦沢町へ移住し、獣害として捕獲される動物たちの獣皮から土に還る革製品を作っておられます。その活動にはどのような想いが込められているのか、お話を伺いました。



次の命に繋げる、土に還る革製品

―――革製品の事業について教えてください。
「現在、千葉県内で獣害として捕獲された猪や鹿などの動物は、棄てられています。それらを再利用するため、買い取りをしています。そして、鞣し作業を経て、土に還る革製品『チバレザー』として展開しています。
革の鞣し作業では、大豆原料の鞣し剤を使用しています。これを使用することで、従来の鞣し作業で使われる薬品を使用する必要がなく、土に還る革になり、次の命に繋ぐことができます。
加工する過程で、最低限の資源を使い最大限の効果を出すことが、これからの革産業の道だと考えています。」




人生の最後まで持って行けるものを作りたい

―――革に着目したきっかけは何ですか?
「1008株式会社を設立する前、自分一人で完結できる仕事をしたいと考えておりました。その頃、趣味としてレザークラフトを始めており、これなら一人で全工程を完結できるのではと思い、革製品を作り始めました。
当時、私の革製品を大変気に入ってくださる方がおられたのですが、ある日突然、その方がお亡くなりになりました。その方の棺に革製品を入れ、天国に持っていってもらおうと思いましたが、火葬場の方から革製品は棺に入れることが出来ないと言われてしまいました。
理由は、革を燃やす程の高温が出せないことと、一般的に革には様々な成分が含まれており、燃やす際に環境に良くないガスなどが出る為、お断りしているとのことでした。
『革製品は一生物』だと言われますが、人生の最後に持って行けないことに創り手としてすごく悔しく思いました。そこから、どこで何が起きても、最後まで持って行けるものを作ろうと思ったのが、土に還るものにこだわり始めたきっかけです。」



―――睦沢町へ移住し、活動を始めたきっかけは何ですか?
「土に還る革製品の事業を始めてから、税金の納め先や製作活動の環境などを配慮したいと考え始めました。
2016年の電力自由化を機に千葉県睦沢町主導で「CHIBAむつざわエナジー」という地域に貢献する電力会社が設立され、このような場所で活動したいと思い、睦沢町をピンポイントに狙って2019年に移住しました。
自宅の屋根を利用し、太陽光発電もしています。発電した電気で作業場や自宅、電気自動車の電力を賄っています。すべてを賄っても余る電力は、売電をしています。電気自動車は車としての機能だけでなく、蓄電池など、いろいろな使い道で利用しています。」




ほとんどの革製品は埋め立てられている

―――従来のクロム鞣しは、環境へどのような影響がありますか?
「私は基本的にヌメ革というナチュラルな革を使用しています。ですが、世界で流通している革の9割はクロムという薬品を使用した鞣し方法で作られており、作る過程や廃棄時の環境負荷は大きいです。最近、ヨーロッパでは改善がみられ、クロムの使用量が減ってきております。
クロムは、三価クロム、六価クロムなどがあります。三価クロムは、安定した物質でそれ自体が人体に害を及ぼす事はなく多くの鞣し作業でも使われています。一方、六価クロムは、人体に有害な物質です。三価クロムは、温度変化で六価クロムに変わることがあり、ゴミ焼却施設などの焼却温度が三価クロムから六価クロムに変わり始める温度だと言われています。
その温度で燃やすと、有害な液体ガスや窒素化合物になり空気中に飛び散る為、革製品は基本的に燃やせないゴミとして埋め立てています。」



環境問題を解決する第一歩は、今使っている物を差し替えること

―――革製品を通してどんな事を伝えたいですか?
「環境問題解決に貢献するための1つの方法は、環境に配慮された商品を選ぶことだと考えています。環境問題について何をすれば良いか分からない方もいると思いますが、特別なことをしなくても、自分の身近にあるものから切り替えてみることで、前進できることを伝えたいです。
例えば、土に還る革製品など、環境に配慮している商品を使うことで、その分クロム鞣しで作られた商品の使用が減り、環境にやさしい動きが増えていくと思います。
そして、私たち作り手側が環境問題解決に貢献できることを一生懸命に考え、提供したいと考えています。」



伝え方の大切さを痛感

「昨年、とある女性から『辻榮さんの活動はすごいけど、面白くない』と言われました。正直、直球すぎる言葉だったのでガツンと来ましたね(笑) その言葉を言われる前は、活動についてデータや実績などの数字を用いて説明していました。
ですが、聞き手の関心が無いことを難しい説明では記憶に残らない、まず楽しいと感じて興味を持ってもらうことが大切だと、彼女から学びました。それがターニングポイントとなり、伝え方をすごく考えるようになりました。
前回実施したクラウドファンディングでは、興味を持っていただけるように美味しいジビエのお肉セットなどを、リターンとして用意したところ、沢山のご支援をいただきました。これをきっかけに知ってもらい、その先にあるものを見てもらうことが一番大事だと思います。」



「森にキャンプする」キャンプ場を作りたい

―――これから挑戦したいことを教えてください。
「自宅の近くにある山は、手入れがされず倒木が激しい状態です。そこを手入れし、『森にキャンプする』というコンセプトのキャンプ場を作りたいと考えています。
また、森で行うエクステラというマウンテンバイクのアクティビティがあります。その練習コースも作りたいと考えています。そして、売り上げをこの睦沢町に還元し、何か活動したいと思っている方々に使ってもらえるような仕組みを作りたいと考えています。」



―――私達が環境問題に対して、今日からできる事を教えてください。
環境に配慮されたプロダクトを選ぶことです。使っている箸や茶碗など、自分の身近にあるものから切り替えてみるなど。
それから、何かアクションを起こしたいと思っているなら、既存の団体に所属するのではなく、まず自分で作ってみると良いと思います。自分が興味のあることから始めてみることもいいと思います。」


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千葉県内で獣害として捕獲される動物たちの獣皮を資源循環し、土に還る革製品を作られている辻榮氏にお話を伺いました。
伝え方を考えるようになったというお話がありました。環境問題や社会問題は難しい内容に聞こえてしまうことが多いように思います。ですが、伝え方を工夫することで伝わり方も変わってくるのではないかと思いました。
世界で辻榮氏しか作れない、土に還る革製品をより多くの人が知り、環境問題などを知るきっかけになる事を願います。


〈Information〉
1008(センノハ)株式会社
住所     千葉県長生郡睦沢町河須ケ谷13-4
お問い合わせ 1008sennoha@gmail.com
Twitter    https://mobile.twitter.com/sennoha_co