【取材】「ソーシャルデザインスタジオ ニアカリ」岡田 恵利子氏

デンマーク留学の学びからジェンダーや教育について語る場づくり、そこに込められた想いとは。

SDGs SQUAREでは、サステナブルやSDGsを意識した活動をされている方にインタビューをしています。どんな想いをもってその活動をしているのかを伺い、一人でも多くの方に伝えていければと思っております。

第11回目は、「ソーシャルデザインスタジオ ニアカリ」 代表 岡田 恵利子氏です。

Profile 

札幌出身・川崎在住、一児の母。
大学で情報デザインを専攻したのちキヤノンに入社、カメラなどの精密機器や写真関連アプリなどのデザインリサーチ・UI/UXデザインに14年間従事し、2018年退社。多様な人が関わるデザインプロセスをうまく進める場づくりについて知見を深めるべく、母校の公立はこだて未来大学大学院に進学し「参加型デザイン」や「共創」について出戻り研究中。
2019年よりデンマークITUに子連れで交換留学、参加型デザイン・共創のデザインが官民共に根付くデンマーク現地の事例を調査訪問し、2020年3月に帰国。現在は、神奈川県・川崎駅周辺を拠点に、デンマークで得た経験や知見を糧にデザイン・写真の力を使って、仕事と研究を交差させた実践を模索中。



デンマーク子連れ留学での学びを活かし、ジェンダーや教育について考える場づくりをされています。その活動にはどのような想いが込められているのか、お話を伺いました。



「ジェンダー」と「教育」について考える場づくり

―――実際にどのような活動をされていますか?
「デンマーク留学中、能動的に市民が政治に参加して群衆の力で社会をより良くデザインしている姿にすごく影響を受けました。帰国してから、私なりに社会への投げかけ何かに挑戦したい人の後押しができる仕事をつくりたいと考え、デザインと写真のスキルを活かした事業や活動を始めました。

具体的には、地域の社会課題解決を支援する「ソーシャルデザインスタジオ ニアカリ」という個人事業を柱として、それと並行して市民活動をふたつ動かしています。ニアカリではいわゆるデザインや写真の受注制作や制作支援がメインですが、何かしら「日々の生活”にあかり”を照らす」社会課題解決に関わる要素が含まれているものを優先してお請けしています。最近の事例では、若い人が減って技術伝承に課題がある某工場で、暗黙知になっていた技術をうまく行える仕組みづくりや内製ドキュメントのデザインをお手伝いしました。

一方、市民活動については完全にボランティアです。ひとつめは現在住んでいる川崎を拠点にジェンダー平等について考える『ジェンクロス・カワサキ』、ふたつめは教育の未来についてデンマークというフィルターを通して考える『EduCari(エデュカリ)』という活動です。私がデンマーク留学中に見聞きした、自立的で民主主義的なコミュニティのエッセンスをどうにか取り入れられないかと奮闘しています。

『ジェンクロス・カワサキ』とは
「川崎地域でジェンダーについて世代を超えて対話できる場づくりをしています。対話イベントなどを開催しており、現在私を含め7名で活動しています。

今年は、身の回りの生活でジェンダーについて感じたモヤモヤをもとに『ジェンダーもやもやはっけん!カード』を作成中です。ジェンダーに関して感じるもやもやを「ジェンダーもや虫」と名付け、その虫をイラストとしてあしらったデザインになっています (笑)」



「カードの表面には『「もう男女平等」、それってほんと?』などを問いかけ、裏返すと『あなたの学校や会社のトップは男女どっち?』『自宅に長くいるのはどっち?』など考えさせる内容を描いています。現在完成しているカードは4枚で、今後どんどん数を増やしたいので、カードに書く内容を増やすためのワークショップも行いたいと考えています。

デンマークに行く前の私のように、日本で普通に生活しているとジェンダー平等に対してどんなギャップがあるか当事者であっても気が付いていない方もいるかと思います。ですがこのカードを使うことで、『確かにこんなモヤモヤある!』などの気づきや、新しい考え方や視点が持てるようになると期待しています。そして周りに働きかけられる人が一人でも増えることで、良い社会になるのではないかと考えています。」

『EduCari(エデュカリ)』とは
「理由は違えど縁があってデンマークに住んだママふたりが、日本の子育てや教育環境を当事者視点で考える活動です。エデュカリとは、エデュケーションに明かりを照らすという意味で名付け、デンマーク留学中に知り合った方をゲストに呼んだイベントを開催したり、デンマークの気になるトピックを取り上げたポッドキャストを配信しています。」





一つの声は小さいが、集まると大きなパワーに

―――この活動を通してどのようなことを伝えたいですか?
「私はデンマークに行ったことで、小さな違和感や自分のモヤモヤに気付けるようになりました。この気づきが日本の文化や社会にとって何かしら影響を与えられるのではないかと考えています。デンマークと日本の良い部分について理解を深めながら、ひとりひとりが自分ごととして思考ができるような場を継続してデザインしていきたいです。

個人事業のニアカリでは、『小さな声が大きな未来の糧になる』というビジョンを掲げていますが、小さな声は一つだと小さいですが、集まるとすごく大きなパワーになるということを、こういった市民活動や、仕事を通して体現していきたいです。特に、私が得意とするデザインや写真には、違和感に気付くセンサーを増幅させたり、色んな人に情報を伝えてムーブメントを起こす力があると信じているので、社会貢献できることがまだまだあると思うのです。

私自身は、年齢を重ねてようやく様々なことを考え気づけるようになりました。持続的に幸せな社会をつくっていくためには、この社会の構成員であることにひとりひとりがもっと自覚的になるべきです。10代や20代、もっと子どもの頃から様々な思考や行動ができると、さらに楽しい人生・素敵な社会になるはず。沢山のキーワードが複雑に絡み合い、繋がっているカオスな社会だからこそ、何がきっかけで良い方向に変わるか分かりません。できることから、気付いて行動していくことが大事だと思います。」



デザインとは情報を加工して分かりやすく表現する仕事

―――この活動をされる前は、どんなことをされていましたか?
「高校生の頃からぼんやりとデザイナーになりたいと思っていましたが当時そこまで明確なイメージはありませんでした。その後大学で情報デザインに出会ったことがターニングポイントになりました。大学生の頃は、3年間テレビ局で報道カメラマンの後に付いて、機材の調整やライトやマイク持ちといったアシスタントのアルバイトをしていました。一見デザインとは何も関係ない仕事のように思いますが、今改めて振り返えってみると地域や社会の情報を加工して表現して分かりやすく人に伝えるという工程は、デザインとかなり共通点が多かったです。

その後新卒で入社したキヤノンでは、カメラやビデオカメラなど精密機器やアプリのUI/UXデザイン業務に携わっていました。具体的には、ユーザーの利用シーンや使い心地についてインサイトを引き出す調査の企画や実施、もっと使いやすくする為に、どのようにデザインに落とし込んでいくべきかを考え操作動線を整理したり、アイコンやアニメーションといった表現にまで落とし込んでいく仕事でした。

フリーランスになった今、そのデザイン対象が地域や社会まで広がっていますが、改めて過去のキャリアを振り返ると、今まで経験した仕事は全て、情報を加工し、どう外に分かりやすく表現していくかを試行錯誤するところが共通していたなと思います。」



キャリアのモヤモヤからデンマーク子連れ留学への道のり

「キヤノンには14年在籍していましたが、自分がデザインした商品やサービスが流行や技術の進化で、市場から撤退する経験を何度かし、そういった状況にモヤモヤを感じるようになりました。いわゆる消費されるデザインの連続に『私は本当にこのようなデザインをしたかったんだろうか?』と疑問に思うことが増えていきました。

また、娘を出産時に取得した育児休業から復帰後、今までのようには働けないという状況も重なり、『このままずっと同じ仕事をし続けるのだろうか?』というモヤモヤも抱えるようになりました。

というのも、育休中に写真講座や出張撮影の副業をスタートしたことがきっかけとなり、そもそもカメラを買ったり使ったりする前の段階で、カメラや写真の魅力を感じられる文化を育てる場が必要だと痛感したんです。子どもの写真を可愛く撮りたいという周囲のママ友に写真を教えたことが最初でしたが、みんな既にいいカメラを持っているんですが、撮影スキルを覚えたい、撮影したい、とモチベーションを持ち続ける場所や仲間が不足していたんですね。

モノをデザインすることももちろん大切ですが、そのモノが存在する前後を通じてコトをデザインすることが大切だなと。そうは思っても今までモノばかりデザインしていたので、形のないコトや場をデザインするってどうしたらいいんだろう?と悩み始めました。

そこで思い切って母校の教授に相談したところ、いろんな人をデザインのプロセスに巻き込み、モノ・コト作りをしていくメソッド『参加型デザイン』の存在を教えてもらい、清水の舞台から飛び降りる思いで院進学を決めました。

入学後すぐに交換留学の機会をいただき、北欧発祥の参加型デザインを学びに子連れでデンマークに渡航しました。当時、母娘のふたりで行くことに周囲には驚かれましたが、娘と一緒に行けたことで、逆に現地の幼稚園や教育の様子、研究以外の様々な人と繋がりができ、リアルな現地の情報に触れることができました。」

デンマークの大学校舎内で娘と
コペンハーゲン・ニューハウンで娘とホットドックを食べる





デンマーク留学で違和感に気が付くセンスを磨いた

―――デンマークではどのような体験をされましたか?
「デンマークに行く前、日本でデンマーク留学に行く話をすると、『旦那さんの理解がすごいね、感謝しないとね』などの言葉をよくかけられました。私自身、もちろん夫にはとても感謝していますが、それをさらに周りから言われることに少しモヤモヤを感じていたんです。

それでもずっと日本で生きてきた私は、このように言われる状況に慣れきっていて、モヤモヤを感じつつも当たり前な反応だと深く考えてはいなかったんですが、デンマークで同じ話をすると反応が全く違うんです。『お互いのキャリアを支え合えていて、すごくフェアで素敵な関係だね!』と夫婦の関係性を褒めてもらえ、これがジェンダー平等の進んでいる国の反応なのか!と、衝撃を受けました。本当に些細なエピソードかもしれませんが、このような小さな経験の積み重ねで、日本のジェンダーギャップのリアルや違和感に気が付くセンスが身についたと感じています。この経験と私の学びを組み合わせ、私なりの方法でどうにか日本で還元できないか、と頑張っているところです。」



娘が大人になった時に、素敵な社会にしたい

「私にとって活動の大きなモチベーションは娘にあります。現在小学生で、デンマークに連れて行った時は年長の5歳でした。元々行動的で活発なキャラクターだった自分が10代20代の頃は社会は男女平等と思い込んで気付けていませんでしたが、結婚して子どもが産まれてから少しずつ違和感が強くなり、今40歳になり過去さまざまな方が声を上げて戦ってくれていたジェンダー問題について、ようやく腑に落ちてきました。今頃気付いてごめんなさいという感じです。

そして、このままの状態だと、私の娘が大人になる頃も同じ状況が残ってしまうのではと危機感を持ちました。ジェンダーだけでなく、教育や環境についても同様です。一番身近な娘が大人になった時、今以上に素敵で住みやすい社会になってほしいなと思います。」

デンマークの幼稚園でおやつタイム





―――これから挑戦したいことを教えてください
「ジェンクロス・カワサキでは、『ジェンダーもやもやはっけん!カード』をブラッシュアップし、キットとして完成させたいです。さらに、教育機関などでツールとして使ってもらい、オンラインでの活動から、リアルな場にどんどん広げていきたいです。

EduCari(エデュカリ)では、教育環境や育児の未来について保護者目線で話せる場づくりを今後も続けたいのと、自分の感情や意見をきちんと言語化して表現する子ども向けワークショップも企画していきたいと思っています。デンマークでは、幼少期から自分の思いを言葉にして対話を重視する教育が浸透しているのを見てきました。対話こそが幸せな社会へのキーワードと感じたので、その辺のエッセンスも少しずつ盛り込めればと思っています。

他にも、デンマークでは環境についても先進的な事例をいくつも見聞きしました。ジェンダーや教育以外の分野にも、社会に貢献できる事業や活動の幅を広げて挑戦していきたいです。」



自分の半径5mからできることを探す

―――私達が社会問題に対して、今日からできる事を教えてください。
「SDGsという言葉だけ聞くとすごく壮大なものに感じますが、噛み砕いてみると、実は自分の生活に身近なことや身の回りからできることが沢山あると思います。自分の半径5mからできることを探し、気づくこと。そのような意識をもって日常を暮らし、出来ることから挑戦してみることが第一歩だと思います。

初めから完璧にはできないですが、幸せに暮らせる社会を作るためには、どれだけ自分が貢献できるのかを模索し、自分が楽しく無理なく繰り返しできることをするのが、重要だと思います。」



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デンマーク子連れ留学の経験を活かし、ジェンダーと教育について社会に投げかける活動をされている岡田氏にお話をお伺いいたしました。
このようなトピックを誰かと一緒に話し、考えられるような場がある事の大切さを教えていただきました。世代を超えてより良い社会について語り合える場が、この活動からさらに広がっていくことを願います。



〈Information〉
ソーシャルデザインスタジオ ニアカリ
公式HP    https://niacari.jp/
FB        https://www.facebook.com/niacari.page/
ジェンクロス・カワサキFB  https://www.facebook.com/genxross/
EduCari(エデュカリ)https://edu.niacari.jp/