【取材】「一般社団法人エディブル・スクールヤード・ジャパン」代表 堀口 博子氏

日本全国の子どもたちへ『食』の学びを届ける、そこに込められた想いとは。

SDGs SQUAREでは、サステナブルやSDGsを意識した活動をされている方にインタビューをしています。どんな想いをもってその活動をしているのかを伺い、一人でも多くの方に伝えていければと思っております。

第15回目は、「一般社団法人エディブル・スクールヤード・ジャパン」代表 堀口 博子氏です。

Profile                                                                                        

2000年、サンフランシスコ、べイエリアの持続可能な農業を取材するなかでエディブル・スクールヤードと出会い感銘を受ける。2006年日本で最初の「エディブル・スクールヤードを紹介した書籍『食育菜園  エディブル・スクールヤード 〜マルティン・ルーサー・キングJr中学校の挑戦』を翻訳編集で出版。その後、日本の公立小学校においてエディブル教育の研究実践をスタート、2014年に一般社団法人 エディブル・スクールヤード・ジャパン(ESYJ)を設立。

学校の校庭に菜園を作り、子どもたちへ『食』の大切さを伝えているエディブル・スクールヤード・ジャパン。その活動にはどのような思いが込められているのか、お話を伺いました。



日本全国の子どもたちに『食』を学ぶ機会を届けたい

―――具体的な活動を教えてください

「『エディブル・スクールヤード』の創設者であるアリス・ウォータース氏は、全ての公立校に学校菜園(エディブル・スクールヤード)を作ることを目指し、カリフォルニア州の幼稚園から大学まで学校菜園をつくり食べられる教育が行われています。また、全米へと活動の輪は広がっています。アリスの築いたエディブル・エデュケーションに賛同した私たちは、日本全国の子どもたちに『食』を学ぶ授業を届けるために、公立小学校を中心に活動をしています。

協働する『東京都多摩市立愛和小学校』では8年半に渡り、ESYJ運営によるエディブル授業を継続し行っています。授業内容は、校庭に菜園をつくり、子どもたちと一緒に野菜を育て、育てた野菜を使った調理実習など、1年間に90分授業を16回ほど行っています。始まった当初は、5・6年生合同の授業だけでしたが、現在では1年生、6年生を除く全ての学年で授業を受け持っています。

毎回授業が終わるたびに、『次の授業はいつ?』と子どもたちから声をかけられ、とても楽しみにしてくれています。私たちが大事にしている、子どもたちが主体的に学べる場づくり、規範をもちながらもできるだけ子どもたちが自由に考え、行動する運営を心掛けているからだと思います。」




琴線に触れる活動で心を動かされた

―――活動を始めたきっかけを教えてください
「ライターとしてのライフワークのなかで、2004年にエディブル・スクールヤードとの出会いがありました。
そして2006年にエディブル・スクールヤードについての書籍『食育菜園 エディブル・スクールヤード 〜マーティン・ルーサー・キングJr中学校の挑戦』を翻訳編集し、家の光協会から出版しました。

公立校で、「食」を真ん中に数学や科学、歴史、外国語、アートなどすべての必修教科を取り込み、育てて食べる体験型学習を正規の授業として採用されていることに、とても心を動かされました。日本でもできないだろうかと、当初はコミュニティガーデンを作りながら、エディブル・スクールヤードの学びのエッセンスを取り込んだプログラムや、渋谷区立中幡小学校ではイベント的に実践していました。

具体的な活動内容は、親子・食育菜園教室を開催し、20人近い子どもたちが参加しました。料理好きのお母さんたちがイベント開催の度に料理を用意してくださって、菜園に食卓テーブルを設え、みんなで育てる、みんな食べることを誰もがとても楽しむようになりました。子どもたちが育てた野菜で簡単なサラダをつくったこともありますよ。
エディブル・スクールヤードが大切にしている『みんなで育てて、みんなで料理して、食卓を囲む』ことが少しだけ実現されました。

その後、先述の多摩市立愛和小学校での実践を経て、子どもたちの反応に『これは何かすごく価値のあること!』と明確に認識し、日本でもこの活動を継続的に行い広めるために、2014年12月に一般社団法人 エディブル・スクールヤード・ジャパンを設立しました。

エディブル・スクールヤードの実践成果を講演などを通じてお話すると、いつも誰かの心に深く届き、琴線に触れて響き、活動の輪が広がっていくんですよね。」



卒業生たちが活動の危機を救った

―――活動を通して子どもたちの変化はありましたか?
「2016年の暮れ、愛和小学校での取り組みが始まってから3年目に存続の危機は起きました。愛和での実践を導いてくださった校長先生が異動となることが分かり、活動の継続が難しいことは予測されました。その頃、学校菜園での授業活動がやっと軌道に乗り始めた段階だったんですよね。

そして新学期が始まった4月10日、この日は忘れられない日ですね。
卒業生8人が「愛和小学校からエディブル授業を無くさないで」と、校長先生に直談判していますよ』と担任の先生から連絡が入りました。

中学生になっても卒業生たちは自分たちが経験したエディブルの授業が大好きで、それを絶対無くさないで欲しいという思いで行動してくれたんですね。本当に驚きました。そしてとても感動させられました。こんなことが起こるとは全く予測していませんでした。

それ以後も存続の危機が起きるたびに救ってくれたのは子どもたちでした。何か守りたいものが生まれると、人は大きな力を生み出すことを実感しました。」



自然の中で様々な繋がりを取り戻す

―――この活動を通して伝えたいことは何ですか?
「活動を通して、自分との繋がりや隣にいる人、地域や家族、先生や学校などいろんな繋がりを感じて欲しいと思っています。

こうした繋がりは自然界の中にもたくさんあって、生き物たちの壮大な命の循環のなかに自分も在ることに気づいてくれたらうれしいな、と思いエディブル授業を毎年続けています。人は心や身体が辛くなったりすると自然の中に身を置きたくなるでしょう? これもひとつの、繋がりを取り戻す行為ですね。

『学校菜園』で仲間と一緒に種を蒔いて、食べものを育てる体験をとおして、自然界に身を置くことがすごく大事だと感じています。

エディブル・スクールヤード(学校菜園)はライフラボ(生命研究所)と言われていて、生命や繋がりを学ぶ場であり、そういう場を学校や地域の中に作ることが大事だと感じています。」

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これからの活動「アーススコーレ」

―――今後、どんなことに挑戦してみたいですか?
「茅場町に生まれた屋上コミュニティガーデンEdible KAYABAENに、2022年10月、子どもたちの食と農の自然学校「アーススコーレ」が開校しました。春スタートと秋スタートの2回、それぞれ4ヶ月間で2時間半の授業を5回行います。

愛和小学校で培った菜園授業を通して、親子関係や学校コミュニティが円滑に、対話がたくさん起きてくる経験をしています。アーススコーレでもその積み重ねを活かして様々な学びの場を提供したいと思っています。コロナ禍、子どもたちは孤立しがちです。一人でゲームに夢中になって、人と友達と関わる経験が乏しくなり、日々の暮らしから会話が不足し、不登校などの教育的課題が日本中で起きていますね。そうした子どもたちを取り巻く社会状況のなかで、私たちエディブル・スクールヤード・ジャパンが貢献できることはあると信じています。

アーススコーレ、12月のプログラムに単発で参加できる枠があります。以下で募集をしています。詳細はこちらからご覧いただければと思います。」






『食』を中心に地球環境について子どもたちと語っていく

―――私たちが環境問題に対して、今日からできることを教えてください。
「子どもや孫の世代である2100年には、平均気温が最大4.8℃上がることを環境省が発表し、誰もが地球はどうなるのかと感じていると思います。大変な時代を生きてく子どもたちのために、大人が何をすべきかを考えなければいけません。

できることの1つは、食事のときに周りの人たちとこの食べものはどこから来ているのかと、話していくことがすぐできるSDGsアクションだと思います。どのように栽培され、どのように食卓にやって来たのか。ここには食の安全もCO2問題も、環境保全もすべて凝縮されています。

生きることは食べることであり、食べることは生きることです。ほんとうに美味しい食べものを食べることは地球を守ることにも繋がっていると思いませんか。」


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『学校菜園』を通して、子どもたちへ食の大切さを伝えている、堀口氏にお話をお伺いしました。
私たちが毎日食べているものを出発点として、『食』やその先にある『環境問題』について考え、解決する活動が増えていくことを願います。

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〈Information〉一般社団法人 エディブル・スクールヤード・ジャパン
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