【取材】「さいたまユースサポートネット」青砥 祥子氏

地域の人たちが地域のこども達を支援するモデル作り、
そこに込められた想いとは。



SDGs SQUAREでは、サステナブルやSDGsを意識した活動をされている方にインタビューをしています。どんな想いをもってその活動をしているのかを伺い、一人でも多くの方に伝えていければと思っております。

第7回目は、「NPO法人 さいたまユースサポートネット」 青砥 祥子氏です。

Profile 
大学では国際政治を専攻、大学卒業後、台湾に留学。台湾国立政治大学大学院で歴史を学ぶ。台湾在住の10年間を通して、戦時下で性暴力の被害にあった女性たち(元従軍慰安婦)の支援団体の通訳のボランティアに携わる。紛争や、戦時下において、最も被害を受けるのは、社会的に一番弱い立場にいる貧困層のこどもと女性であること、マイノリティの声にこそ耳を傾けたいという思いは、今取り組んでいる活動にも共通して抱いている。


埼玉県さいたま市を拠点に、貧困など様々な困難を抱えるこども・若者を支援する活動をされています。その活動にはどのような想いが込められているのか、お話を伺いました。



地域のこども・若者を地域で支援する仕組み

―――どのような活動されていますか?

「さいたまユースサポートネットは、私の父が代表をしており、2011年に設立し11年目を迎えます。地域で孤立しているこども・若者を、地域と協働して支援する事を目標にしている団体です。地域の民生委員・児童委員の方、学校、行政、教育相談室やスクールソーシャルワーカーなど、本当に様々な方と協働で取り組んでいます。

私達の団体の事業は大きく2つのカテゴリーに分けられます。1つ目が行政からの委託事業、2つ目が自主的に行っているボランティア事業です。

1つ目の行政からの委託事業では『さいたま市若者自立支援ルーム』や『生活困窮者自立支援事業の学習支援』等を行っています。そこでは地域の自治会の方々と一緒に、地域のお祭りや運動会に参加させて頂いております。若者自立支援ルームにいる10~30代の若者が、運動会でリレーをすると地域の方たちが声援を送ってくれるので、こどもたちは必死に走るんですよね。今まで学校生活を送れなかったこども達が、ここで「誰かに応援してもらった」「楽しかったな」「大人と関われたな」という体験をして、また次のステップに進めるような活動をしています。
また、学習支援に来るこどもたちは、「大学って何?」「大学生を初めて見た!」と反応しています。「大学はこんな場所だよ」「こんな事ができるよ」と知る事が出来たり、「かっこいいお兄ちゃんが勉強を教えてくれた」など、頑張ろうと思えるきっかけ、ロールモデルと出会うことがこども達にとって大切だと思います。」

就農体験の様子

「2つ目のボランティア事業の一つは『たまり場』という活動です。
この事業では、『交流の場たまりん』というゲームやお喋りなどの自由な時間を過ごす交流の場と、『学び直しの場まなびん』という学校の宿題でわからなかった問題や課題を他の参加者やボランティア、スタッフに聞いたり一緒に考えたりする場を提供しています。

『学び直しの場まなびん』では、通信制学校の学生や宿題を持ってくる子などに、地域のお父さんや学生ボランティアさんが勉強を教えています。さらに、ここで学び直しをする子もいれば、高校の卒業資格を持っていないので学び直したいというお父さんも勉強を教わる事もできる場所です。住んでいる場所や年齢などの制限を設けていないので、時々都内から来て下さる方もいらっしゃいます。」

たまり場の様子

「これらの事業は設立当初から行っています。どなたにでも「ぜひ来てくださいね」と言える『たまり場』は大事だと思っています。これまで本当に様々な困難を抱えた方に参加して頂いています。発達障害、知的障害、虐待、家庭が崩壊している子、小さいころに両親を亡くした方、ホームレスだった若者、ヤングケアラー、外国にルーツのある方、犯罪に巻き込まれた方、少年院に入っていた方、など本当に様々です。やはり、こども達を追い詰めず孤立させないで、地域の中でこども・若者たちを支えるという事はすごく大事だと思います。」



「たまり場」という居場所をつくる事が出発点

―――その活動にはどのようなきっかけがありましたか?

「代表は、高校の元教員で、退職後に明治大学や埼玉大学などで教育学を教えていました。教員時代に、中退していく生徒を沢山見てきました。なぜ中退していくのか理由を調べていくと、家庭環境の問題貧困と格差の問題にたどり着きました。この内容は書籍『ドキュメント高校中退』(ちくま新書)にもまとめています。
このような若者達が地域で孤立しないよう、何かしらの居場所が持てるようにという想いで始めたのが、「たまり場」という居場所をつくる事です。

格差社会で一番しんどい思いをするのはこども達だと思います。こども達を支える活動のきっかけは父でしたが、私がもともと持っていた問題意識と共通する所もあったと感じています。」


こども・若者の見えにくい貧困 

―――こども・若者の貧困の現状を教えてください。

「まず相対的貧困とは、その国の国民の平均収入の2分の1以下、半分以下で生活している事(OECDの調査)を指し、日本では約300万人のこども達(19歳以下)が、貧困の中で生きています。確かに、今のこども達はスマホを持ってきれいな洋服も着ているので、一見貧困が見えにくい場合があります。普段過ごしている様子ではわからないのに、家庭訪問をして初めて貧困だとわかる事があります。私達の団体に繋がっているこども達のなかで、家から一歩外に出るとわからないのに、お家はゴミと猫の糞などで散乱して、お母さんは精神疾患で起き上がれない状態、もちろん冷蔵庫には食べ物がないという環境で暮らしている子がいました。

子どもの貧困率は、ここ数年15%前後と推計されていますが、さいたま市だけでも、小中学生で1万5千人の小中学生が貧困の中で暮らしていることになります。私達がさいたま市から委託を受けて運営している学習支援教室には、毎年300~400人の中高生がやってきます。全国でもこのような学習支援に参加しているこども達は300万人の貧困層のこどもたちのうち、約6万人です。困窮の中で暮らす多くのこどもには支援が届いていないのが現状です。私達が活動している場所でも、どれだけのこども達を取りこぼしているのか、そこの課題意識を持っています

また、こどもたちの困難は貧困だけではありません。家族または本人に障がいがある事が理由で友達ができない事や、不登校、低学力、虐待、ネグレクトなど、貧困以外にも複合的な困難を抱えている事が見受けられ、社会から孤立している家族が多い事も実状です。貧困だけじゃない複合的な問題を抱えている彼らを、私達は支えたいと考えています。

私達は地域で協働する事を大事にしています。それは、地域のスクールソーシャルワーカーや児童民生委員や行政の方々は、生活保護を受けているご家庭とも繋がっており、「このような状況のこども達がいるよ」と教えて頂く事で支援などが出来るからです。
また、私達が出来ない事は他の社会資源に繋げていくように、地域との協働が一番大切だと思っています。地域の方々と繋がる事で、絵本やピアノも寄付で頂きました。みんなに支えてもらって私達が活動出来ていると思っています。」

寄付されたピアノ
寄付された絵本




地域で協働して取り組みたい、孤立という問題

「孤立という事がすごく問題だと思うんですよね。自分が苦しい時に、地域で誰かそばで支えてくれる人がいる、もしくは見守ってくれる人がいると思えるかという事が、重要だと思います。誰にも話せず助けてもらえないとか、そういった孤立感が人を追い詰めるのではないかと思います。今起きている様々な事件は、孤立の問題と関係があるのではないかと思います。夢も希望も持てず、自分はもう駄目だというように。みんな一人では生きていけないし、支えながら生きていければ良いなと考えています。

たまに小学校を不登校になってしまうこども達がいます小学校では、まだ学校や行政機関、教育相談などこどもが相談できる場所があると思いますが、高校を卒業するともう何もなくなってしまいます。定時制や通信制に通っていたり、障がいを持っているこども達が高校を卒業するとセーフティーネットが何もないです。そういう若者たちを孤立させて追い詰めるのではなく、今までできなかった社会体験や学校体験をしながら、地域社会と関わり、その一員として生きていけるようになると良いと思っています。」



こども・若者が安心して夢や希望を持って生きていける地域を作る

―――青砥さんが考える、理想な地域社会はどのような姿ですか?

「まずは「今必要な支援をこども達へ届ける事」が1つです。給食が唯一の食事だというこども達もいるので、今すぐに必要なもの、食事や服などが手に入る事です。さらに、地域の方々がセーフティーネットとしてこども達を支え、地域の中で生きていく事で、「こども達が安心して夢や希望を持って生きていける地域を作る」という事です。障がいがあるかないか、貧しいか貧しくないか、外国籍か日本国籍なのかなど、人は色々です。私自身もでこぼこしていて、得意な事・不得意な事は極端だったりするので。

「みんな でこぼこがあるというそのままの多様性を認める社会や地域」や誰かが応援してくれ、「ここに居ていいんだ」「ここだったら自分を出して喋っていいんだ」と思ってもらえるような場所を作りたいです。」

―――本日お邪魔させて頂いているこのカフェは、今年オープンされたとお聞きしました。

「はい、私達の活動を知って頂くきっかけになって欲しいと思いオープンしました。また、こども達を支える事業を安定して継続していくために、少しでも足しになるようにという想いもあります。いかにして、安定的に事業を継続していくかという事が、もう一つの課題だと考えています。

カフェの隣のスペースに体育館のような運動ができるスペースもあります。そちらも地域の方に開放し、レンタルスペースとしてスポーツのスクールやセミナー等で使って頂ければと思っています。」




今後、全国に広めていきたい「堀崎モデル」とは

―――これからどんな事に挑戦していきたいですか?

「ここ、さいたま市見沼区堀崎を起点に、地域の自治会や民生委員・地方議員・学校・行政・企業などすべての住民のネットワークで、生きづらさを抱えるこども・若者を支援する『堀崎モデルを作りたいと思っています。

さらに、このモデルはここだけではなく全国どこの地域でも使えると思っています。それぞれの地域の方々の社会資源を大事にしつつ、地域の方々がその地域のこども達を支えるというスタイルが一番良いと思っています。そのようなモデルを作り、全国の方々に真似して欲しいと考えています。」

堀崎プロジェクトの図




まずは、知る事からはじめる

―――私達が貧困に対して、今日からできる事を教えてください。

「格差と貧困はこの社会の最大の問題で、日本は先進国の中でもでも最も厳しい少子化に直面している国です。2100年には、日本の人口は、国のシンクタンクの試算で、低位推計で3700万人に減る試算もあります。150年前の明治維新とほぼ同じ水準です。人口3700万人の国は、誰がこの社会を支えて、働いて生産するのか。ほぼ手がうたれていません。そして、今の社会は、若者たちがこどもを安心して育てられない社会です。こどもたちに残す未来は、このような社会で良いのか、この深刻な状態をまず知って頂ければと思います

そして、ボランティアやマンスリーサポーターとして、こどもたちを支える輪に加わっていただけると嬉しいです。お待ちしています。

―――

こども・若者が安心して夢や希望を持って生きていける地域を作るという志を持ち、活動されている青砥氏にお話を伺いました。

貧困の問題のほかに、複合的に様々な困難を抱えているこども・若者の現状を知り、より多くの人々で取り組んでいく必要があるなと思いました。この活動が全国に発展し、より多くのこども・若者に届き、困難を抱えている方々が少しでも生活しやすい地域や社会が増えていければと思います。


〈Information〉
NPO法人 さいたまユースサポートネット
住所     〒337-0052 さいたま市見沼区堀崎町12-39
お問い合わせ TEL 048-829-7561
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