【取材】「コクヨ株式会社」齊藤 申一氏

結の森プロジェクトで実現する森を守る仕組み、そこに込められた想いとは。



SDGs SQUAREでは、サステナブルやSDGsを意識した活動をされている方にインタビューをしています。どんな想いをもってその活動をしているのかを伺い、一人でも多くの方に伝えていければと思っております。

第8回目は、Work & Life style Company「コクヨ株式会社」サステナビリティ推進室 環境ユニット長 齊藤 申一氏です。

Profile 
1990年にコクヨ(株)に入社。管理部門、営業部門を経て、2002年より現職。2006年から結の森プロジェクトを担当。

1998年に地域の間伐材を使用したオフィス家具の販売、2006年からは高知県四万十町を拠点に『結の森プロジェクト』を開始されました。この活動にはどのような想いが込められているのか、お話を伺いました。


高知県の四万十町を拠点に「環境と経済の好循環」

―――「結の森プロジェクト」ではどのような活動をされていますか?
「単なる社会貢献活動では終わらせたくないという想いで、『環境と経済の好循環』をキーワードに、2006年から高知県の大正町森林組合(現:四万十町森林組合)と地元の方々と提携し、『結の森』プロジェクトを開始しました。『結』とは、人と自然の繋がりを持つという意味が込められており、環境と経済の好循環を目指すことです。私達は特に手入れが遅れがちになる民有林の保全活動をしています。実際の活動は森を中心にそれぞれの分野のプロが役割分担をして行っています。
例えば、森林組合の方々は森の育成と間伐を進める保全活動を担当し、コクヨグループは間伐材を利用することに注力、地元の森では四万十高校の学生たちと一緒に、間伐の効果を観察する植生調査や清流調査を行っています。様々な方と連携し、森林管理・商品開発・情報発信の3本柱で活動をしております。」



間伐で森を守る

「初めは、対象面積100haからスタートしました。現在では、対象面積5,425ha、累計間伐面積1,900haまで広がり、すべての木材がFSC®森林認証(FSC® C004748)(FSC-C007763)を取得しております。
活動している地域の保有林はほぼ結の森の敷地面積になっており、実際私が現地の森に行っても、どこまでが結の森なのか分からない程の壮大な面積です。ですが、面積だけで説明するとピンとこないので、『対象面積が足立区の面積ほどで、累計間伐面積は新宿区ほどの規模感です』と最近説明することが多いです(笑)

コクヨグループでは、約300 名の森林組合の山主さんと連携をしております。彼らが所有している民有林の間伐をする際の費用の一部を弊社が負担しています。FSC®森林認証を取得する木材を育てる森にするために、間伐をして手入れをする必要があります。

本来であれば、間伐により森が健やかになり、伐採した木材も売れることが理想ですが、現実は厳しく、間伐費用が山主さんの負担となっています。森を成長させるには50年程年月が掛かりますが、その間、健やかさを維持することは難しく、森が廃れていくという日本の課題があります。

さらに、もう一つ問題になっているのは、持ち主が分からなく放置されている山が沢山あることです。持ち主が分からないと、手入れが出来ず、結果放置されてしまいます。
ですが、私達の活動で少しずつ間伐を進めることにより、生物多様性が守られ、森の土壌が良くなると共に、地球温暖化の防止にも貢献できると考えております。高知県からはCO2吸収証書を頂いております。

このような活動は環境にとって良い事ではありますが、成果を見える化することが難しいです。そこで私達は、CO2の吸収量で数値化して表しており、2020年では5369tのCO2を吸収し、コクヨグループ全体で排出している1年間のCO2のうち、17%吸収しました。」




モニタリングの植生調査と清流調査

「間伐した森はどのような変化をもたらすのかを調べるため、地元の高校生たちと一緒に毎年植生調査をしています。

植物図鑑を片手に毎年観察していると、間伐することで光が入り、日当たりによる温度の変化によって育つ植物の種類に変わっていくことが分かります。
全体量はあまり大きく変わりませんが、植物の種類が結構変わっていきます。今では、シダ系の植物がはびこっています。

また、森と川は繋がっているため、清流調査もしています。主には、川にいる虫を探し、清流度スコア値を算出します。綺麗な川にしか住めない虫を発見できると清流度のスコア値が上がります。逆に汚い川にしか住めない虫を見つけると川が汚いということが分かります。高校生が専門家として、これを毎年行っており、人材育成の観点でも貢献できていると感じています。」




間伐されたヒノキ材を利用したオリジナル商品の販売

「通販会社のカウネットで『結の森シリーズ』として、四万十町の間伐材を使用した文具商品を販売しています。
また、地域の間伐材の使い道を作るため、各自治体様の窓口カウンターで使用できる、間伐材からできた商品も販売しています。使用する木材は、各地域の間伐材を使用しており、現在17の自治体様にご使用いただいております。」




森が抱える問題に着目

―――この活動にはどのようなきっかけがありましたか?
「結の森プロジェクトが始まる前、1998年に地域の間伐材を使用したオフィス家具の販売から活動をスタートさせました。活動を始めた2000年初頭の日本では、間伐不足による森林機能の低下が問題になっていました。国内産業で木材を利用するため、沢山の杉とヒノキを植え、定期的に間伐し、木材を利用することを見込んでいましたが、現実は安価な輸入外材などの影響で日本の森そのものが使われなくなっていきました。現在は、異常気象の影響などで台風の規模が大きくなったことも合わせて、本来持っている森のダム機能なども低下しています。
この森の問題に着眼点を持っていたことと、私達のグループで使っている原材料は、段ボールなどの容器包装材も含むと、紙資源が圧倒的に多いという理由から、間伐材オフィス家具の販売のような間接的な取り組みから、直接的な活動をしようということで、『結の森プロジェクト』森林保全活動を始めました。

ですがもう1つあります。それは、森林によるCO2吸収という点に着目していたことです。地球温暖化防止活動として、CO2削減と吸収の両方の活動をすることで、CO2排出量をプラスマイナスゼロにすることが可能ではと考えたのです。 また、四万十町を拠点にしている理由は、以前から販売している間伐材家具を通じて四万十町の森林組合の方との関わりがあったことです。」


日本の課題を学びながら働ける場づくり

―――様々なきっかけがあったのですね。では、これからどんな事に挑戦したいですか?
「今までの間伐材家具は地方自治体のような公共団体をメインに活動していたので、これからは民間に拡大したいと考えています。最近では、新型コロナウイルスの影響を受け、場所にとらわれない仕事が増えているので、日本の課題を学びながら仕事が出来るワーケーションのような場を提供したいと考えています。

また、現在はまだプロトタイプしかありませんが、サステナブルな木製家具ブランド『yuimori(ユイモリ)』を開発中です。オフィス用の家具は、家庭用と比べてより強度が重要となり、品質とコストのバランスが大変難しいです。これからは、SDGsの12番『つくる責任つかう責任』の、つかう責任を消費者の方が理解を深められるように、安全で長持ちする使い方などをうまく伝えていきたいと考えています。」




「もったいない」という気持ちが大事

―――私達が環境問題に対して、今日からできる事を教えてください。
「当たり前なことではありますが、もったいないという気持ちが絶対大事です。日本人の精神とよく言われますよね。また、必要な物しか買わない事が大切だと思います。購入する前に、本当に必要か?と問いかけていると、いろいろな物が見えてきます。文房具1つにしても、容器包装材がないものを購入しています。
家でよくコーヒーを淹れますが、無駄なお湯を沸かさないためにコーヒーを淹れる時は一杯分のお湯だけを沸かすようにしていたら、一杯分の量が感覚で分かるようになりました(笑)コーヒーを淹れる度に、今日はピッタリ!今日はちょっと多かった!と、こんな些細なことでも結構楽しめますよ。」


―――

四万十町を拠点に森林保全や地元の高校生たちと環境活動をされている、齊藤氏にお話を伺いました。

その活動について楽しそうに語られていたのが印象的でした。毎年行われる森と川の定点観測は、自分の目で自然を観察でき、人生において貴重な経験になるのではないかと思います。今後もこの活動によって守られていく森が増え続けることを願います。

〈Information〉

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